映画『チルソクの夏』

久留米でのMMAイベント終了後は、映画『チルソクの夏』を見るため熊本へ向かう。5〜7月には舞台となった山口県や、隣接する福岡県で先行上映していたものの見る機会がなく、8月の九州各地での上映でチャンスを狙ってたので。この時期は熊本Denkikan大分シネマ5で上映中。

『チルソクの夏』公式サイトより抜粋引用

チルソクの夏

1977年の下関市を舞台に、日韓高校生の友情と淡い恋を描いた青春物語。

*CAST
水谷妃里(遠藤郁子)
上野樹里(杉山真理)
桂亜沙美(藤村巴)
三村恭代(木川玲子)
淳評(安大豪)
高樹澪(26年後の郁子)
山本譲ニ(郁子の父)
夏木マリ
谷川真理
イルカ
金沢碧

脚本・監督:佐々部清

製作:プルミエインターナショナル/2003チルソクの夏製作委員会

*STORY
1977年、下関市
姉妹都市釜山との親善事業として、毎年夏に開催される関釜陸上競技大会に出場した長府高校の陸上部員郁子は、同じ高跳び競技の韓国人の男の子、安大豪(アンテイホウ)に出会います。戒厳令中の釜山の夜に宿舎まで会いに来た安に、郁子は淡い恋心を抱きます。来年の夏の再会を約束する2人。それはまさに七夕(韓国語でチルソク)の逢瀬。携帯電話もメールもなかった時代、日本と韓国が今ほど親しくなかった時代。それは、日本の歌を歌ってはいけない時代でもありました。安の母親、郁子の父親、それぞれの葛藤の中で、郁子の切ない初恋をなんとか実らせようと奔走する、同じ陸上部の真理、巴、玲子の3人。そして1978年の夏、下関に釜山の高校生たちを乗せた船が着き、少女たちの想いが奔流のようにあふれ出します。
そして、26年後の2003年。郁子の胸に湧き上がる、17歳の少女だった「あの夏」…。

見終わっての感想は、一言で言えば「美しい作品」。
70年代の日韓問題という閉鎖的なテーマを描きながらも、爽やかな青春映画に仕上がっているところが感動を呼ぶのでしょう。脚本としては突っ込み足りない部分や、曖昧な結末に物足りなさは感じるものの、それが作風だと思えば納得できるところ。一種、『アイコ16才』に通じる部分があるかもしれない。
ヒロインの水谷妃里を中心に、仲良し4人組を演じるのが上野樹里桂亜沙美三村孝代

遠藤郁子役を演じる水谷妃里は、硬質なキャラの中にうまく透明感を出していて、決して演技上手とは言えないけれど、インパクトの薄い主人公を強調しすぎることなく表現している。この微妙な“薄さ”が、作品全体のコンセプトになっているようにも感じるわけで。
それとは対照的に、上野樹里が演じる杉山真理役の、積極的で破天荒なキャラの描き方も巧み。演技には荒っぽい部分も目立つけれど、何か引きつけられるキャラでその難点を包み込んでしまう。主演ではないのに印象度は高く、キャラと脚本がうまくマッチした結果かな。素朴で洗練されていないキャラだけれども、ストレートに上昇志向が強く目立ちたがり屋…って、本人と同じですから(苦笑)。
何気に4人のまとめ役になっている藤村巴役・桂亜沙美は、やっぱり天才です(笑)。演技力という点では、4人の中でも群を抜いているもの。ともすれば空中分解しそうになる4人を、うまく取り持っている感じ。こうしたキャラは、青春映画には不可欠でしょう。目立ちすぎず、でも存在感はしっかりと…このコはホント、何をやらせてもソツなくこなしてしまうよね。その資質には、いつもながら驚かされるもの。スタイルもいいし、可愛いし、くぅー…その分、器用貧乏に見えてしまうのが損なところだなぁ。
で、仲良し4人組のもう一人、木川玲子役の三村孝代は…かなーり目立たない(苦笑)。印象薄いです。南アルプス天然水CMで注目された後、何も展開がないまま久々に名前を見た作品だけれども…。
総じて、この4人にはキャスティングの妙を感じる。脚本とマッチしたキャラを選び、それを描いた制作サイドの勝利と言うか。敢えて意図的な作りをせず、観客に媚びることもない、今どき珍しくストレートな作風。それが70年代の舞台設定と相成って、素直な女のコ4人の感性を清らかに、瑞々しく描くことに成功していると。
また、舞台が70年代だけに、挿入歌や物語に登場する曲がピンクレディーや『横須賀ストーリー』『なごり雪』(主題歌でもある)なのも涙モノ(苦笑)。制服姿の4人が振り付きで歌う『カルメン'77』は必見です(笑)。
なお、公開館の熊本Denkikanは、明治時代に開館したという由緒ある映画館。いわゆるニューシネマ系の玄人好みな作品を上映しているよう。ゆるい階段状の設置された座席は大きく、前席との間隔もゆったり。身長180cm以上の自分でも、ゆったりくつろぎながら見られる作りには好感度大。
ただ、台風接近の荒天(繁華街にも人通りが少ない)という悪条件もあってか、観客は自分を含めてわずか5人。上映は10:00と18:40の2回だけで、昼間〜夕方は洋画の『talk to her』を上映。入場時には「次の回は『チルソクの夏』ですけれど、いいですか?」と聞かれちゃうし(苦笑)。山口県や福岡県では地元でもあり公開成績も良好で、大分でもそれなりに盛り上がっているようだけど…熊本は? それより何より、このテの作品は東京など都会で上映してこそ、意味があるんだよなぁ。
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